医療業界は、人々の健康的な暮らしに大きく貢献してきました。しかし、少子高齢化の進行による医療サービス需要の増加と医療従事者不足など、多くの課題を抱えている業界でもあります。これらの問題を解決するため注目されているのが、DXです。DX(Digital Transformation)とは、直訳すると「デジタルによる変革」を意味する言葉で、経済産業省の「DX推進ガイドライン」では、以下のとおり定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 |
ただ、DXの意味やDX導入に向けた医療業界ならではの課題がよくわからないという方もいるかもしれません。本記事では、医療業界においてDXが注目される背景や、その導入に向けた課題などを解説したのちに、医療業界におけるDX活用事例を紹介します。
出典:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver. 1.0|経済産業省
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目次
医療業界においてDXが求められている背景
ここでは、医療業界においてDXが求められている背景として、以下の3つを解説します。
- 少子高齢化
- 過不足ない医療物資の供給
- 収益性向上
それでは、1つずつ解説します。
少子高齢化
DXが求められている背景の1つ目は、少子高齢化です。
日本では、少子高齢化がこれからますます進むと予測されています。内閣府の令和3年度版高齢社会白書では、2065年において以下の見解を出しています。
- 日本全体の人口は、約8.8千万人
- 65歳以上の者1人(約3.3千万人)を、1.3人(約4.5千万人)の現役世代(15~64歳の者)で支えることになる
日本全体の人口が減少する上に、生産年齢層の割合も減少し高齢者の割合が増えることから、医療サービス需要の増加と医療従事者不足が大きな問題になると予測されるのです。
過不足ない医療物資の供給
DXが求められている背景の2つ目は、過不足ない医療物資の供給です。
これまで医療物資は、海外からの輸入に大きく依存してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大によって、医療物資の生産や輸入が滞り、医療物資不足が問題になりました。まだデジタル化が進んでいない医療機関も多く、有事の際に効率よく医療物資を分配できない病院が多く存在することがわかりました。これらのことを踏まえ、医療業界のDX化を進め、効率よく過不足ない医療物資の供給を実現することが求められています。
収益性向上
DXが求められている背景の3つ目は、収益性向上です。
病院の利益率は決して高くありません。独立行政法人医療福祉機構の報告によると、令和2年度では新型コロナウイルス感染症拡大もあり、一般病院では、-1.1%となりました。特に、小規模な医療機関において新型コロナウイルス感染症拡大を恐れて、通院を控える事例が増えたことが原因と考えられます。そのため、収益性向上もDXに期待されることの1つです。
出典:2020 年度(令和 2 年度)病院の経営状況|独立行政法人医療福祉機構
医療業界においてDX普及に向けた課題
ここでは、医療業界においてDX普及に向けた課題として、以下の2つを解説します。
- ガイドラインへの対応
- 専門性の高さ
それでは、1つずつ解説します。
関連記事:DX推進の背景・課題と失敗しないための5つポイント
ガイドラインへの対応
課題の1つ目は、ガイドラインへの対応です。
医療機関において、クラウドサービスを活用するには、厚生労働省・総務省・経済産業省がそれぞれに制定したガイドラインに対応することが求められます。しかし、これらのガイドラインを全て読み込むことは、非常に骨が折れる作業です。
専門性の高さ
課題の2つ目は、専門性の高さです。
医療機関において使いやすいDXツールを導入するには、それぞれの医療機関の実情や業務にあったカスタマイズが重要です。しかし、医療機関の業務は専門性が高いため、部外者には業務内容の理解が困難です。そのため、DXに加えて医療分野にも理解のある人物の存在が、DX普及には重要なのです。
医療業界においてDXを用いて実現できること
ここでは、医療業界においてDXを用いて実現できることとして、以下の5つを解説します。
- 現場業務効率化
- オンライン検診
- 医療機関等同士のネットワーク構築
- BCP対策
- 予防医療サービスの提供
それでは、1つずつ解説します。
現場業務効率化
DXを用いて実現できることの1つ目は、現場業務効率化です。
例えば、軽作業や見回りなどを行なってくれるロボットを導入することで、スタッフの作業負担を軽減できるでしょう。また、医療機関においては、多くの定型的書類を作成する必要があります。そこで、RPAツールを用いて書類作成を自動化すれば、業務効率化を実現できるでしょう。さらに、ツールを用いたナレッジ共有や工数管理によっても、現場業務効率化が期待できるでしょう。
関連記事:RPAとは?基本機能と導入効果を徹底解説
オンライン検診
DXを用いて実現できることの2つ目は、オンライン検診です。
オンライン医療は、iCT技術の向上により普及してきました。オンライン医療を行うことで、患者の通院負担や感染リスクを軽減できます。また、スタッフの業務軽減に加えて、医療の地域格差軽減にも寄与するでしょう。
医療機関等同士のネットワーク構築
DXを用いて実現できることの3つ目は、医療機関等同士のネットワーク構築です。
病院や薬局などが連携し、患者の情報を速やかに共有できるネットーワークを構築します。これにより、患者が転勤などで今までとは異なる医療機関で受診しても、すぐに患者の過去の受診情報を閲覧できます。これにより、医療サービスの向上が期待できます。
BCP対策
DXを用いて実現できることの4つ目は、BCP対策です。
BCPとは、災害時などの異常事態における事業継続計画のことです。医療機関はBCP対策が重要な機関の1つだと言えます。異常事態においても医療サービスを継続するには、カルテや検査結果などのデータが欠かせません。しかし、病院内のサーバーだけでは、災害時にはそれらのデータを活用できなくなる恐れがあります。そこでクラウドを活用してデータ保存を行えば、データ損失リスクを軽減できるでしょう。
予防医療サービスの提供
DXを用いて実現できることの5つ目は、予防医療サービスの提供です。
近年、予防医療サービスの需要が高まっています。予防医療サービスとは、病気になってから治療するのではなく、食事や運動などの健康管理を行うことで、病気の予防を目指す医療サービスのことです。スマートフォンやウェアラブル端末を活用することで、身体の状態を把握して予防医療サービスを受けることが容易になりました。
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医療現場へのDX導入事例
ここでは、医療現場へのDX導入事例として、以下の3つを解説します。
- ロボット導入による業務効率化
- クAIによる自動問診
- 患者とのコミュニケーション促進
それでは、1つずつ解説します。
ロボット導入による業務効率化
DX導入事例の1つ目は、ロボット導入による業務効率化です。
多くの医療機関においては、少子高齢化により、医療ニーズ増大と担い手不足を課題だと感じています。また、感染症拡大防止策も医療機関が抱える課題の1つです。そこで、A大学病院ではゼネコンやアシスタントロボット企業と連携して、ロボット導入による業務効率化実験を行なったのです。ロボットの導入により、ICUにいる看護師と医師とのリモートコミュニケーションや、軽量物の運搬などの役割を期待できます。これらによって、病院の業務効率化を実現できる上に、感染症拡大防止にも役立つと期待されます。
AIによる自動問診
DXを用いて事例の2つ目は、AIによる自動問診です。
B病院では、1日に300人以上の患者が来院するため、受付から診察終了まで平均で1時間以上かかっていました。また、遠方から受診しにくる患者も少なくなく、待ち時間の長さに課題を感じていました。また、問診内容も、受付と看護師とでバラつきがあり、問診レベルの平準化にも課題を感じていたのです。
そこで、AI自動問診ツールを用いることで、問診の効率化を図りました。患者の待ち時間に事前にAI自動問診ツールで問診に必要な情報を記入してもらうようにしました。その結果、待ち時間の短縮に加えて問診前に医師の元に情報を得られる状態を作れたため、問診の質も向上したのです。
患者とのコミュニケーション促進
DXを用いて事例の3つ目は、患者とのコミュニケーション促進です。
Cクリニックでは、患者に対して検査結果を当日伝えることができていないことに課題を感じていました。患者としてはもっと早く検査結果を知りたいのではないかと考え、検査データ共有アプリの導入を決めたのです。アプリを導入することで、検査結果をすぐにアプリに反映し、より早く結果を伝えられるようになりました。
また、Cクリニックでは、検査結果にコメントをつけるようにしました。これにより、患者の健康意識増進やコミュニケーション促進効果も感じられるとのことです。
まとめ
本記事では、医療業界においてDXが注目される背景や導入に向けた課題などを解説したのちに、医療業界におけるDX活用事例を紹介しました。医療機関においても、検査データ共有アプリやロボットなど、様々な形でDXによる業務改善が進められています。DXを有効活用することで、業務改善が期待できる医療機関は多いことでしょう。
ただ、医療機関でDXを推進するには、ガイドラインへの対応や業務の専門性の高さによる弊害など課題も少なくありません。そのため、DXツールのベンダーに頼りすぎず、医療機関側も積極的にDXについて理解を深めて最適な活用方法を模索することが、DX推進を成功させる重要なポイントになるでしょう。
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