暗黙知とは?形式知との違いと属人化を防ぐ形式知化の進め方

2026年03月31日(火) ナレッジ共有

暗黙知とは、個人の経験や勘・直感に基づく、言語化が難しい知識のことです。ハンガリー出身の哲学者マイケル・ポランニーが1966年に提唱した概念で、自転車の乗り方や熟練職人の技のように「できるが、うまく言葉にできない」知識を指します。

暗黙知は、言葉や数式・図表で表現できる「形式知」と対をなす概念です。ビジネスにおいては、ベテラン社員だけが持つ業務ノウハウや営業センスなどが暗黙知に該当し、これを組織全体で共有可能な形式知に変換する取り組みを「ナレッジマネジメント」と呼びます。形式知化したナレッジの蓄積・検索には、NotePMのような社内wikiツールを活用する企業も増えています。

この記事では、暗黙知の定義と形式知との違いを整理した上で、放置した場合のリスクや形式知化の具体的な方法まで順を追って解説します。

暗黙知の定義と形式知との違い

ポランニーが提唱した「暗黙知」の概念

暗黙知とは、経験や感覚を通じて身についているが、言葉で明確に表現することが難しい知識です。「知っている」「できる」という状態にありながら、その方法や根拠を他者に体系的に伝えることが容易ではありません。

ポランニーの著書『The Tacit Dimension』では、「私たちは語れる以上のことを知ることができる(we can know more than we can tell)」という命題が提示されています。1966年に発表されたこの概念は、人間の知識には言語化できる部分だけでなく、言語化を超えた領域があることを示したものです。

日本では、1990年代に野中郁次郎らがナレッジマネジメントの理論に組み込んだことで、ビジネスの文脈でも広く知られるようになりました。組織における知識管理を考える上で、暗黙知という概念は今日でも重要な基盤となっています。

暗黙知と形式知の違い

形式知とは、言葉・数式・図表・マニュアルなど、何らかの記号体系で表現・記録できる知識です。教科書に載っている公式や業務手順書の内容がこれにあたります。暗黙知と形式知の主な違いを以下の表に整理します。

比較軸暗黙知形式知
言語化困難。言葉で完全に表現しにくい可能。文書・数式・図表で記述できる
共有のしやすさ難しい。体験・観察を通じた伝達が主容易。文書・データベースで広く配布できる
性質主観的・身体的・文脈依存客観的・論理的・文脈から独立
具体例自転車の乗り方、熟練職人の感覚、営業のセンス自転車の構造図、製品仕様書、営業マニュアル

ただし、実際には暗黙知と形式知は明確に二分されるものではなく、グラデーションがあります。ある程度言語化できるが完全には伝わらない、という中間的な知識も多く存在します。二項対立として捉えるよりも、「どの程度言語化・共有できるか」という連続的なスペクトラムとして理解する方が実態に近いでしょう。

ビジネスと日常生活での具体例

日常生活における暗黙知の典型例は、自転車の乗り方です。一度身につけると体が自然に動きますが、「どうやってバランスを取るか」を他者に言葉だけで教えることは非常に難しい。料理における「ちょうどよい味加減」や、人の顔を見分ける能力なども同様で、経験の積み重ねによって獲得されるものです。

ビジネス場面では、熟練営業担当者が商談の場で感じ取る「この顧客が求めているもの」という察知能力や、製造現場のベテラン技術者が音や振動で機械の異常を察知する判断力などが暗黙知にあたります。カスタマーサポートで場の空気を読みながら顧客のクレームを穏やかに解決する対応力なども、マニュアルには書ききれない暗黙知の一例です。

一方、形式知の例としては、製品の組み立て手順書、計算式を使った原価計算ルール、標準化された顧客対応スクリプトなどがあります。これらは文書化されており、担当者が変わっても同じ品質で業務を遂行できます。

注意すべき点として、暗黙知は形式知より「価値が低い」わけではありません。むしろ、熟練者が長年かけて蓄積した暗黙知こそが競合との差別化の源泉になっているケースも多くあります。形式知化はあくまで組織としての活用を目的とした手段であり、暗黙知そのものの価値を否定するものではありません。

暗黙知を放置することで起きるリスク

暗黙知は意識的に対処しなければ、個人の中に閉じたまま失われます。その結果として組織が直面するリスクは、決して小さくありません。

最も深刻なリスクのひとつが、ベテラン社員の退職・異動によるノウハウの消失です。2023年版ものづくり白書によると、製造業の就業者は2022年度までの20年間で158万人減少しており、34歳以下の若年就業者の割合は2002年度の31.4%から2022年度には24.4%にまで低下しています。技術を持つ層の高齢化が進む一方で、若手への継承が追いついていない状況です。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査では、製造業企業の約54%が技能継承が「うまくいっていない」と回答しており、約80%が将来の技能継承に不安を抱えていることが示されています。この数字は製造業に限った話ではなく、あらゆる業種でベテランの経験知が言語化されないまま組織を去るリスクは共通して存在します。

第二のリスクは、業務品質のばらつきです。暗黙知が特定の担当者に依存している場合、その人が対応するかどうかによって成果物や顧客対応の品質に差が生まれます。属人化した業務は管理も難しく、問題が起きても原因の特定に時間がかかります。

第三のリスクは、組織の成長停滞です。新人・若手が「見て覚える」方式のみで育成される環境では、一人前になるまでに時間がかかりすぎます。ベテランが教育に割く時間も増え、生産性の低下につながります。育成コストが高い状態が続くと、人材の定着にも悪影響を及ぼします。

こうしたリスクを回避し、暗黙知を組織の共有財産として活用するための第一歩が、形式知への変換です。次のセクションでは、形式知化によって得られる具体的なメリットを整理します。

暗黙知を形式知に変換する4つのメリット

前のセクションで見たように、暗黙知の放置は組織にとって大きなリスクです。では、形式知化に取り組むことで具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。単に文書を作るという作業を超えて、組織全体の知識管理の仕組みを整えることで、複数のメリットが得られます。

デジタル・ナレッジ(eラーニング戦略研究所)の調査では、中小企業の4社に1社が「業務知識の属人化」を人材育成における最大の課題として認識していることが報告されています。形式知化への取り組みは、この課題に直接応えるものです。

1. 属人化の防止

属人化とは、特定の業務の知識やスキルが一部の担当者に集中し、その人がいなければ業務が回らない状態を指します。形式知化によってノウハウが組織の共有財産になれば、担当者が変わっても業務を継続できます。

例えば、特定の顧客との関係構築に必要な背景情報や交渉の経緯が担当者の記憶にしか存在しない場合、その担当者の退職や異動は業務上のリスクに直結します。これを引き継ぎ文書や社内データベースに落とし込むことで、組織としての継続性が確保されます。

2. 業務効率の向上

暗黙知が共有されていない環境では、同じ問題に対して担当者ごとに解決策を一から考える「車輪の再発明」が繰り返されます。過去に誰かが解決したはずの課題に、別の担当者が再び時間をかけるのは非効率です。

形式知化によって解決事例やノウハウが蓄積・検索できる状態になると、担当者は既存の知識を活用して素早く対応できます。問い合わせ対応の場面を例にとると、過去の対応事例が参照できれば、新人でも短時間でクオリティの高い回答を出せるようになります。

3. 組織全体のスキル底上げ

形式知化のメリットは、「全員がベテランと同じレベルになる」ことではありません。むしろ、組織全体の基準ラインを引き上げることにあります。ベテランのやり方を言語化することで、そのやり方がチームの標準として共有され、平均的な品質が向上します。

例えば、ベテランの営業担当者が無意識に行っているヒアリングの手順を言語化してチームで共有すると、若手担当者の商談品質が全体的に改善するケースがあります。個人の属人的なスキルを組織のスタンダードに昇華させる、これが形式知化の本質的な効果です。

4. 人材育成・引き継ぎの迅速化

OJT(職場内訓練)依存型の育成では、先輩社員のスケジュールや教え方のスキルに新人の成長速度が左右されます。教える側の負担も大きく、業務が繁忙な時期には育成が後回しになりがちです。

形式知化によって手順書・FAQ・事例集が整備されると、新人が自律的に学べる環境が生まれます。業務の基礎部分をドキュメントで習得した上でOJTに臨めるため、育成期間を短縮しながら先輩社員の負担も軽減できます。異動や担当交代時の引き継ぎコストも、文書化された知識があれば大幅に下がります。

では、具体的にどのような方法で形式知化を進めるのか。次のセクションでは、ナレッジマネジメントの代表的なフレームワークであるSECIモデルを解説します。

SECIモデルによる形式知化の進め方

SECIモデルとは、野中郁次郎・竹内弘高の著書『知識創造企業』(1995年)で体系化された、知識創造のプロセスを表すフレームワークです。暗黙知と形式知が相互に変換されながら、知識がスパイラル状に深化・拡張されていく仕組みを示しています。

SECIは4つのプロセスの頭文字で、Socialization(共同化)、Externalization(表出化)、Combination(連結化)、Internalization(内面化)の順に知識が循環します。このサイクルを繰り返すことで、個人の暗黙知が組織全体の知識資産へと発展します。

SECIモデルの4つのプロセス

4つのプロセスはそれぞれ独立した作業ではなく、連続するサイクルとして機能します。一つひとつの意味と実際の業務における場面を確認しておきましょう。

共同化(Socialization):暗黙知から暗黙知へ

共同化は、暗黙知を持つ人と持たない人が共同体験を通じて知識を共有するプロセスです。言語を介さず、観察・模倣・実践によって暗黙知が伝わります。

典型的な例は、ベテラン営業担当者への同行訪問です。マニュアルには書かれていない商談の間の取り方、顧客の反応に応じた話題の切り替え方、場の空気の読み方などを、新人担当者は体で感じ取っていきます。OJTや師弟関係における「見て覚える」プロセス全般がこれに該当します。

表出化(Externalization):暗黙知から形式知へ

表出化は、暗黙知を言葉・図・数式などの形式で表現し、他者が理解できる形に変換するプロセスです。4つのプロセスの中で、形式知化に最も直接的に関わるフェーズです。

ベテラン社員へのインタビューをもとにノウハウをまとめたマニュアル作成や、熟練技術者の判断基準を言語化してチェックリストに落とし込む作業がこれにあたります。当事者が「当たり前にやっていること」を第三者が引き出しながら言語化していく場面では、インタビュアーの技量が鍵になります。

連結化(Combination):形式知から形式知へ

連結化は、既存の形式知を組み合わせ・整理・統合して、新たな形式知を生み出すプロセスです。個別に存在するドキュメントやデータを構造化することで、より使いやすい知識体系が生まれます。

例えば、部門ごとに分散していたマニュアルを統合して全社のナレッジベースを構築する取り組みがこれにあたります。既存の顧客対応事例を分析・分類して対応ガイドラインを作成する作業も連結化の一形態です。こうした情報集約の基盤には、NotePMのようにWord・Excel・PDFまで全文検索できる社内wikiツールが活用されています。

内面化(Internalization):形式知から暗黙知へ

内面化は、文書や研修で学んだ形式知を実践で繰り返すことで、自分の身体・感覚に落とし込むプロセスです。マニュアルを読んで理解することと、その内容を意識せずに実行できるようになることは別物です。

研修で学んだ顧客対応の原則を、実務の中で何度も試行しながら「自然にできる」状態に昇華させていく過程がこれにあたります。内面化によって個人が新たな暗黙知を獲得し、それがまた共同化のプロセスで次の人に伝えられることで、サイクルが一周します。

形式知化を支える「場」の設計と推進体制

SECIモデルを実際に機能させるには、各プロセスが起きやすい「場(ba)」を意図的に設計することが重要です。野中らは、知識創造が起きる物理的・仮想的・精神的な共有空間を「場」と定義し、プロセスごとに異なる場が必要だと示しています。

共同化の場としては、ベテランと新人が一緒に働くOJT環境や、部門を超えた合同プロジェクトが機能します。表出化の場には、定期的な業務振り返りのミーティングや、ノウハウを引き出すことを目的とした構造化インタビューが有効です。連結化の場は社内Wikiやナレッジベースのような情報集約の仕組みが担い、内面化の場は実務の中での繰り返し実践が中心になります。

推進体制としては、形式知化を主導する「ナレッジリーダー」の存在が重要です。プロセス全体を俯瞰しながら、誰のどんな暗黙知を引き出すか優先順位をつけ、インタビューや文書化を進める役割を担います。この役割が不在のまま「みんなで知識を共有しよう」と呼びかけるだけでは、活動は形骸化しやすくなります。

ツール(社内Wikiやナレッジ管理システム)の導入は有効ですが、ツールだけで形式知化は進みません。共有することが評価される文化と、続けられる仕組みが同時に必要です。

形式知化で失敗しないための3つのポイント

形式知化の取り組みは、始めること以上に、続けることが難しいのが実情です。多くの組織でナレッジ共有のプロジェクトが立ち上がっては形骸化するのは、仕組みよりも運用の問題に起因することが多くあります。ここでは、よくある失敗パターンとその対策を3つのポイントに絞って整理します。

  1. 共有する知識の優先順位を決める
  2. 現場が使い続けられる仕組みをつくる
  3. ベテラン社員の協力を引き出す工夫をする

1. 共有する知識の優先順位を決める

よくある失敗のひとつが「すべての業務を形式知化しようとする」ことです。範囲を広げすぎると作業量が膨大になり、どれも中途半端なまま終わります。形式知化が必要な知識と、そうでない知識を見極めることが先決です。

優先順位の判断軸として使いやすいのが、「属人化リスクの高さ」と「業務への影響度」の掛け合わせです。担当者が一人しかいない業務で、かつその業務が停止すると組織全体に影響が出る領域から着手すると、取り組みの効果を実感しやすくなります。最初の成功体験が、継続的な活動の原動力になります。

2. 現場が使い続けられる仕組みをつくる

「マニュアルを作っても誰も読まない」という現実は、多くの組織で繰り返されています。問題は多くの場合、マニュアルの内容ではなく、参照する動線が日常業務に組み込まれていないことにあります。

定着させるためには、情報にアクセスする行為を業務の流れに自然に組み込む設計が必要です。例えば、問い合わせ対応の際に最初にナレッジベースを検索することをチームのルールにする、新人研修のカリキュラムにドキュメントの読み込みを組み入れるといった方法が有効です。

また、「完璧な文書でなければ公開しない」という姿勢も定着を妨げる要因になります。80点の精度でも早く共有する方が、現場での改善サイクルが回りやすくなります。文書は一度作ったら完成ではなく、使われながら育てるものとして運用する方が長続きします。

3. ベテラン社員の協力を引き出す工夫をする

形式知化の取り組みで最も重要な協力者であるベテラン社員が、非協力的になるケースがあります。その背景には、「自分のノウハウを共有すると自分の価値が下がる」という不安や、「言語化できない感覚を言葉にするのは難しい」という意識、そして単純に「時間がない」という現実的な制約があります。

一つ目の対策として、ベテラン本人に直接「文書化してください」と依頼するのではなく、インタビュー形式で第三者(ナレッジリーダーや後輩担当者)が聞き出しながら言語化する方法が有効です。話すことの負担は書くことの負担より小さく、会話の中で「自分でも気づいていなかった暗黙知」が引き出されることも多くあります。

二つ目の対策として、知識の共有を評価制度や表彰制度に組み込むことが考えられます。ナレッジ共有が「仕事の本業ではない余計な作業」と認識されている組織では継続が難しくなります。貢献が可視化・評価される仕組みがあることで、継続的な参加を促しやすくなります。

暗黙知と形式知の要点まとめ

暗黙知とは何か、そしてそれをどのように組織の知識として活かすかを整理してきました。最後に要点をまとめます。

  • 暗黙知とは、経験・感覚に基づく言語化が難しい知識であり、形式知(言語・図表で表現できる知識)と対をなす概念です。
  • 放置すれば退職・異動によるノウハウの消失、業務品質のばらつき、育成コストの増大につながります。
  • 形式知化のメリットは、属人化防止・業務効率向上・スキルの底上げ・人材育成の迅速化の4点です。
  • SECIモデル(共同化・表出化・連結化・内面化)は形式知化を体系的に進めるフレームワークです。
  • 取り組みを継続させるには、優先順位の設定・日常業務への組み込み・ベテランの巻き込み方が鍵になります。

社内のナレッジ管理を仕組み化したい方は、NotePMの無料トライアルから始めてみるのも一つの方法です。

まず取り組むべきことは、自社で属人化リスクの高い業務を洗い出すことです。「担当者が突然いなくなったら困る業務」を起点にリストアップし、そこから形式知化の対象を絞り込んでいくと、現実的な一歩が踏み出しやすくなります。

おすすめのナレッジ管理ツール「NotePM」

NotePM(ノートピーエム) は、Webで簡単にマニュアル作成できて、強力な検索機能でほしい情報をすぐに見つけられるサービスです。さまざまな業界業種に導入されている人気サービスで、大手IT製品レビューサイトでは、とくに『使いやすいさ・導入しやすさ』を高く評価されています。

NotePMの特徴

  • マニュアル作成、バージョン管理、社外メンバー共有
  • 強力な検索機能。PDFやExcelの中身も全文検索
  • 社内FAQ・質問箱・社内ポータルとしても活用できる
  • 銀行、大学も導入している高度なセキュリティ。安全に情報共有できる

URL: https://notepm.jp/

NotePMについて詳しく見る >