「属人化」とは、特定の人のみが仕事のノウハウを抱えている状態を指す言葉です。属人化は、企業が時代の変化に適応するためにはネックになっていると言われていて、属人化を解消するための「業務標準化」が求められています。一方で、属人化にはメリットが存在するのも事実です。この記事では、属人化の意味や原因、メリット・デメリットを解説します。業務標準化の流れも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
属人化とは
属人化とは、誰でもできる仕事を特定の人へ任せきりにしている状態を言います。日本人のビジネスのスタイルは分業が基本であり、それぞれ自分が担当する業務を抱えているのが一般的です。そのため、特定の業務を担当する従業員が1人しかおらず、その人以外はやり方を把握していないケースも珍しくありません。言い換えると、業務が組織ではなく特定の個人に属した状態になっています。この状態が属人化であり、批判的な意味合いで使用されることが多いです。かつては、IT分野のプロジェクト管理などでよく用いられていましたが、次第に他の分野や業種でも使われるようになりました。
属人化とスペシャリストの違い
属人化と似た意味の言葉に、スペシャリストがあります。スペシャリストとは個人のキャリア構築方法の一種であるのに対して、属人化は組織としての課題を指す言葉です。
スペシャリストは、特定領域に特化して、深く狭い知識やスキルを身に着けた人材のことを言います。会計士や医師、エンジニア、料理人など、経験に基づく高度な専門知識が必要な職種では、スペシャリストの存在が目立ちます。
一方で、属人化は他の人にも任せられる状態にもかかわらず、業務がブラックボックス化されている状態を指す言葉です。まったく異なる概念の言葉であり、スペシャリストであっても、専門的なノウハウや知識を他の人に伝わるよう言語化することは可能です。
属人化を解消する「業務標準化」が注目を集める理由
近年では、社内の属人化を解消する業務属人化が重要視されています。その背景には、次の2つの理由があります。
働き方の多様化
かつての日本では終身雇用は当たり前でしたが、現在では転職や副業のハードルが大幅に下がりました。その理由は、景気の悪化によって年功序列よりも成果主義を採用する企業が増えたことや、やジェンダーギャップの改善により働く女性が増えたことなどの社会変化が挙げられます。総務省の「労働力調査」によると、2023年の転職者数は328万人に及んでいて、転職希望者の数は計測開始以来7年連続で上昇中です。
このように雇用が流動化したことで、業務ノウハウが企業に蓄積されづらくなりました。企業にノウハウを蓄積するためにも、中途社員を育成するためにも、属人化の解消が重要視されています。
出典:労働力調査(詳細集計)2023 年(令和5年)平均結果の要約|総務省統計局
労働人口の減少
少子高齢化にともない、社会全体で深刻な人手不足が発生しています。定年を迎えたあとにセカンドキャリアを築く人の人数は増加傾向にあるものの、64歳以下の労働力人口は横ばいの状態です。パーソル総合研究所の推計によると、2030年には644万人の人手不足が発生すると言われています。後任を確保する難易度が上がるため、とくに人手不足が深刻な領域ではノウハウが引き継がれないまま、業務が属人化した社員が定年を迎えてしまうリスクがあるでしょう。
たとえばIT業界では、企業の基幹システムや専用プログラムのうち保守・運用ノウハウが引き継がれなかったものが「レガシーシステム」と呼ばれ、問題視されています。
属人化を引き起こす要因
そもそも、なぜ業務属人化が発生するのでしょうか。主な要因を3つ紹介します。
業務の専門性が高い
専門性が高い業務は、特定の知識やスキルを持っていない従業員には難しい場合があります。専門性の高い業務を担当する人が、高度な知識や経験がない人にも伝わるように説明するのは、容易ではありません。そのような業務の標準化は容易ではないため、かなりの労力が必要になりますし、たとえ行えても品質が低下するリスクもあります。そのため、他の人からは業務内容が理解できないままになり、属人化が進んでしまうでしょう。
実務で忙しくて時間がない
「属人化を解消したい」という意思はあっても、人手不足や業務負担の偏りなどが原因で、ノウハウの共有が後回しになってしまうこともあります。業務負担を分散できないままになり、属人化がより進むという悪循環に陥ります。ワーク・ライフ・バランスを実現ないことが原因で、離職してしまうリスクがあるため要注意です。
ナレッジマネジメントが不十分
業務に必要な知識やノウハウの総称を「ナレッジ」と言い、ナレッジを共有・活用するための仕組みを「ナレッジマネジメント」と呼びます。ナレッジマネジメントでは、ただナレッジを共有する場を設けるだけでは不十分です。ナレッジを共有した人を評価する仕組みを作り、社員に「ナレッジを個人で独占するよりも共有したほうがためになる」と思わせる環境づくりが求められます。
属人化のメリット
業務は標準化しておくのが好ましいという風潮が見られるものの、実際には属人化にもメリットがあります。やみくもに標準化するのではなく、業務の性質や難易度を考慮したうえで判断するのが得策です。
仕事への責任感やモチベーションを高めやすい
「この仕事は〇〇さんにしか任せられない」という状況に置かれることで、社員に責任感が芽生えやすくなります。頼られていることでやり甲斐を感じ、仕事のモチベーションもアップするでしょう。ただし、人によっては責任が重荷になるケースもあるため、デメリットとして働くこともあります。
顧客や他社員から信頼されやすくなる
営業職や販売職のような職種では、社員の個性や人柄が売上に影響することも多くなっています。顧客と相性の良い社員が毎回窓口として担当することで、信頼関係を深められ、売上アップにつながるでしょう。また、社内においても同様に、「わからないことがあっても〇〇さんに聞けば解決する」という状態にすることで、確固たるポジションを築くことが可能です。
業務効率が向上する
知識や経験が豊富な人が担当するため、業務を安定した品質で、スピーディーに進められるでしょう。さらに、人材教育に割く時間もかからないため、実務に専念できます。ただし、担当者が異動や退職になるとノウハウが継承されないため、同じ品質のサービスを永続的に提供することが難しい点には注意が必要です。
属人化のデメリット
属人化が批判的に捉えられることが多いのは、いろいろな問題の原因になりやすいからです。業務の大部分が特定の担当者に依存しているので、担当者が不在の場合や他の従業員が行う場合に、困った状況になることがよくあります。ここでは、属人化によって引き起こされる問題を具体的に紹介していきます。
品質管理ができない
属人化している業務を担当者以外が行った場合、同レベルの品質を維持するのは簡単ではありません。業務の遂行に必要な情報が共有されておらず、それまでの適切な方法で取り組めないからです。試行錯誤して仕上げても品質が悪く、やり直しや修正を繰り返しても本来のレベルに達しないケースがよくあります。また、品質管理の基準が共有されていなければ、他の従業員はそもそも品質の良し悪しをチェックすることすら困難です。これらのリスクがあるため、業務をやり遂げたとしても油断はできません。不具合が見つかるなど、品質に関する問題やクレームを想定した備えが必要になります。
ナレッジが組織に蓄積されない
担当者の退職にともない、ナレッジそのものが社内から失われてしまうリスクがあります。業務ノウハウや知識が他の社員に共有されないため、後任の社員は1からナレッジを築くことになるでしょう。以前と同じ品質のサービスを提供できなくなるため、売上にも影響するかもしれません。1971〜1974年生まれの団塊ジュニア世代が定年退職する時期には、属人化したナレッジの喪失がとくに顕著になることが予想されます。
業務効率の低下
業務効率の低下は、属人化によって起こりうる代表的な問題です。担当者以外に行えない業務は、その人が不在になっただけで停止しかねません。また、リスクを回避しようとして、代わりの従業員が担当しても状況が好転しない場合もあります。慣れていないので適切に進めるのが難しく、いたずらに労働時間が増えることになりやすいからです。さらに、それがボトルネックとなって、後のフローに該当する業務がすべて遅くなってしまうケースも見受けられます。結果として納品が間に合わないなど、信用や利益を損ねる事態に発展することも少なくありません。このように、広範囲にわたって業務効率が低下することもあるので注意が必要です。
ミスに気付きにくくマネジメントが難しい
業務でミスをしたときは、損害の拡大を防ぐために迅速な対処が必要です。したがって、周囲の指摘や担当者の申告によって、少しでも早くミスを明らかにしなければなりません。しかし、属人化が進んでいる職場は、ミスはなかなか発見されなくなってしまいます。業務の進捗や状況を透明化できず、担当者が気付かなかったり隠したりすると、周囲が察知するのは困難だからです。また、属人化が恒常的で従業員が各自の業務に専念していると、情報共有する必要性を感じにくくなります。そうして、ミーティングなどの機会が減れば、さらにミスの発覚が遅れがちになるので気を付けなければなりません。
属人化を解消する「業務標準化」の方法
スムーズに標準化を成功させたいなら、正しい手順を把握したうえで取り組むことが重要です。ここでは、具体的な流れを3つのステップに分けて説明していきます。
属人化の実態を把握して業務フローを整理する
標準化の最初のステップは業務フローを明確にすることです。属人化が起こっている業務を特定して、どのように作業を進めているのか把握しなければなりません。表面的にチェックするだけではわからないことが多いので、担当者に直接確認して調べることが大事です。ヒアリングしたい箇所をリストアップし、それを使って担当者と共通認識を持つことによって、抜けがなく精度の高い情報を得やすくなります。そうして、属人化している箇所を十分にヒアリングした後は、業務フローを把握しやすくするためにフローチャートなどの制作が必要です。
業務マニュアルを作成する
業務フローが明らかになったら、マニュアル化して他の従業員も理解できるようにする必要があります。ただし、いきなり情報が網羅されたものを作ろうとするのは効率的ではありません。まずはフローチャートなどをベースにして、一連の流れがわかるような簡易なマニュアルを用意します。そして、内容を付け足したり読みやすく編集したりして、少しずつブラッシュアップしていくと作りやすいです。その過程でも、担当者のヒアリングを実施し、得られた情報を反映していくことで完成度を高められます。
マニュアルもとに業務の分散化を進める
マニュアルを作成した後は、それを他の従業員に読んでもらい、業務を分散できる状態を目指します。1人ずつ配布するという手段もありますが、情報共有ツールを活用するなどの工夫をすると周知しやすいです。また、属人化が進行する原因として、担当者への権限の集中が挙げられます。権限を持たない他の従業員は、その業務の遂行を自分の役割だと認識するのが難しく、責任がないように感じることも多いです。ですから、業務を分散するときは、責任も分担することを明示しなければなりません。
PDCAを回す
標準化した業務フローを実践してみたものの、ムリやムダが見つかる可能性も十分あります。また、状況が変化したことで、以前の業務フローが合わなくなるケースもあるでしょう。標準化によってかえって業務効率や品質が低下してしまわないよう、現場の声を聞きながら定期的に見直しや改善に取り組むことが大切です。事前にモニタリングのための指標を設けたうえで、PDCAサイクルを回していきましょう。
まとめ
ビジネスにおける属人化とは、誰でもできるはずの仕事が、特定の社員にしか任せられなくなっている状態を指す言葉です。働き方の多様化や人口減少などの社会問題を抱えるなかで、属人化をそのままにしていると、経営に悪影響を与えるリスクがあります。ただし、属人化にもメリットが存在するのも事実ですので、すべての業務において属人化を解消すればいいわけではありません。自社にとって適切な範囲で、業務標準化を進めていきましょう。属人化解消を成功させるには、便利で使いやすいITツールを活用するのがおすすめです。
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