文書管理は、現在の企業が直面しているさまざまな課題を解決する有効な手段のひとつとして注目されています。企業が直面している課題とは、競争激化や景気低迷によるコスト削減、労働人口減少による人材の質・量の不足、情報漏えいなどのリスクへの対応、コンプライアンス対応の厳格化などです。
さらに文書管理は、品質管理についての国際規格であるISO9001でも重視されており、同規格を取得すると企業の対外的な信用力がアップします。そこで、ISO9001は文書管理をどのように規定しているのか、文書管理はなぜ必要なのか、そして文書管理のメリットについて紹介します。
文書管理は、ISOやコンプライアンスといった観点のほかに、全社的な業務効率化や生産性向上にもつながります。文書管理の基本的なポイントに関しては、こちらの記事もご一読ください。
• いまさら聞けない!文書管理の基本事項と押さえておくべきポイント
目次
ISO9001の取得に不可欠な文書管理とは
ISO9001は、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)で規定されている規格のひとつです。ISOは、国際間の取引がスムーズにできるように共通の基準(規格)を決めています。ISOは国際規格ですが国内規格でもあるため、国内取引のみの会社にも適用されます。
ISO9001とはなにか
ISO9001は「よりよい製品やサービスを持続的に提供するための仕組みを評価するガイドライン」のことで、「品質マネジメントシステム」とも呼ばれています。製品やサービスの品質マネジメントシステムに関する規格が定められ、製品やサービスの品質を継続的に改善し、顧客の要求に応えることで顧客満足度を高めることを目的としています。そのためISO9001を取得すると、ISOという信用力の高い国際機関から品質管理について一定の基準をクリアしている企業であることが認められたとして、対外的な信用力がアップします。
このISO9001の認証を取得するには、規定に沿った適切な文書管理が欠かせません。それは、ISO9001の評価ポイントのひとつに品質管理マニュアルや社内規程の文書管理がしっかりしていることが必要とされているからです。
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ISO9001における文書管理の役割と要求事項とは
ISO9001における文書管理の役割として、「正式な文書が必要な場所で間違いなく使えるようにすること。そして文書の発行、配布、受取・使用のいずれの段階でも間違いのない行動ができること」を求めています。そのために文書管理に対する要求事項を定めています。
• 必要な文書の種類とその作成方法を定める
必要な文書の種類や作成方法は、それぞれの企業が自主的に規定します。企業の規模や業種、業務フローなどによって必要な文書の種類が異なるからです。作成方法の規定には、文書を識別する方法(タイトル、日付、作成者などの表記)や文書の形式(紙の文書化か電子文書か、記述形式)などの項目が必要です。作成された文書はレビューを経て承認される必要があります。
• 文書の管理方法を定めて遵守する
文書の管理方法も、それぞれの企業が自主的に規定し、その規定を遵守しなければなりません。どのような管理方法であっても、ISO9001は文書化した情報について以下の二つの事項を守ることを要求しています。
- 文書化した情報が必要なとき、必要なところで、入手でき、かつ利用に適した状態になっていること
- 文書化した情報が十分に保護されていること
また、文書の管理に当たっては上記の保存ができるだけではなく、文書の配布・利用、文書へのアクセス・検索、変色などで読みにくくならないような保管方法、文書が変更されたときの管理や廃棄などを適切に行えるようにすることを要求しています。
文書管理における適切な分類方法を知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
適切な分類方法で効率的な文書管理を行うには?
文書管理が必要な理由
ISO9001を取得する、しないにかかわらず、企業にとって文書管理は重要です。理由は大きく分けると二つあります。一つは、文書管理を適切に行うことは、さまざまな課題を解決できる手段となるからです。もう一つは、法律によって保存義務と保存期間が定められている文書の管理をしなければならないからです。
文書管理で解決できる課題
文書管理を適切に行うことで以下の課題を解決にできます。
保管場所・費用の増大
文書の保存には、保管場所や管理のためのコストがかかります。紙の文書の場合は、文書管理が適切に行われていないと不要な文書をため込んでしまいがちです。そのため事務スペースが狭くなったり、保管場所として外部倉庫が必要になったりして余分な管理コストがかかります。
電子文書の場合は、命名規則が適切に管理されていないと、必要な文書を探すことはできません。さらにバージョン管理や期限が適切に管理されていないと、不要な文書が増え、どれが必要なものか、どれが最新の文書かが分からなくなってしまいます。
業務効率・生産性の低下
文書を適切に管理できていないと、検索性が低下し、必要なときに必要な情報をすぐに取り出せず、業務の効率が低下し、生産性を下げます。また、必要な情報が共有されないと営業活動に支障をきたしたり、作業にミスやトラブルが起きたりする可能性があります。
リスクマネジメントが困難
文書が適切に管理されていないと、紛失・漏えいなどのセキュリティリスクが増加します。また、コンプライアンスに関する問題が生じたとき、文書管理が不十分であると説明責任も十分に果たせないことから対外的な信用を失うリスクが大きくなります。また、近年は自然災害が大規模化していますが、それによる重要な文書の消失などに対するリスク回避も困難で事業継続にも大きな悪影響を与えます。
サービス品質・顧客満足度の低下
文書が適切に管理されていないと顧客への対応に時間がかかったり、不正確な対応や同じことを何度も聞いたりしてしまい、提供できるサービスの質が低下し、顧客満足度も低下します。
法律で定められた文書の管理
企業が取り扱う文書のなかには法令で保存が義務づけられている文書が多くあり、必要な場合はこれらの文書を取り出してこなければなりません。保存・管理が適切にできていないと最悪は法律違反に問われる可能性があります。法定保存文書の種類やその保存期間をしっかりと把握して保存・管理をしなければなりません。
ISO9001の改訂で文書管理がより重要に
近年のデジタル化の進展で、多くの企業では部門を問わずあらゆる業務においてシステム化が進んでいます。文書も電子データで作成されたり、活用されたりすることが多くなりました。そこで、ISO9001でも2015年に文書管理の規定が改定され、電子文書の管理や保存についての規定が追加されています。この改定により、「文書化した情報が適切に管理され、保護されていなければならない」という内容が追加されました。
具体的には、以下のことが求められています。
- 外部からのサイバー攻撃による消失や情報漏えい、改ざんを防ぐ
- バックアップを用意する
- 電子文書へのアクセス権を管理する
- 電子文書を保存したメディアを適切に管理する
ISO9001に沿った文書管理を行うメリット
ISO9001に準じた文書管理をしっかり行うことには多くのメリットがあります。大きなメリットとしては、「文書管理が必要な理由」で紹介した課題を解決できることです。それに加えて以下のメリットもあり、文書管理を徹底することでコーポレート・ガバナンスや経営管理力を高められます。
信頼性の向上
ISO9001を取得すると、高品質な製品・サービスを提供できる体制が整っているということを対外的に証明できます。それによって高品質な製品・サービスを提供する企業という評価を受け、他社との差別化が可能です。また、品質が理由となるクレームを減らせます。
顧客満足度の向上
ISO9001で要求されているレベルで文書管理を行うことで、作業や業務フローのマニュアル化、課題の見える化、作業の優先順位付け、正確な情報の記録などを実現できます。それらの記録によって、早く適切な顧客対応が可能になり、顧客満足度を上げることが可能です。
ナレッジの共有・継承
社員が個人的に持っているノウハウ、知識や経験というものは、共有が難しいものです。しかし文書の形で残しておけば、ノウハウを共有・継承し、後進の育成に役立てられます。文書管理によってナレッジの属人化や、属人化されたノウハウの消失を防げます。
部門を横断したコミュニケーションの促進
文書管理を適切に行うことで、部門を超えて文書による情報を共有して活用できます。その結果、業務の相互理解が深まるだけでなく、異なる部門間での協力体制の構築が可能です。さらに、部門を超えたコミュニケーションを促進できます。
文書管理はメイン業務のひとつとしての取り組みが必要
適切な文書管理は、営業活動を効率的に進めるためだけでなく、企業活動の課題を解決でき、リスクマネジメントを行うためにも必要です。さらにISO9001に沿った文書管理を行うことは対外的な信用力を高められます。文書管理は、補助的な業務ではなく重要なメイン業務のひとつとして捉えて実行することが必要です。
いかがでしょうか?文書管理はコンプライアンスにかかわる重要な経営姿勢とも言えます。一方で、適切に運用していくことで、組織の生産性向上や社内外からの信頼の獲得にもつながります。
文書管理を効率的に進めるためにはツールの利用も同時に検討する必要があります。
文書管理に有用なツールと選定のポイントをこちらの記事にまとめてあります。ツール検討の際にはご一読ください。
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