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E02-2-部⾨システムからのデータの⾃動取り込みにおける注意点

Published on 03/07/2023 10:15
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JIPAD

JIPAD

Japanese Intensive care PAtient Database

日本ICU患者データベース

E02-2.部⾨システムからの
データの⾃動取り込みにおける注意点

Version 2.0

変更日:2023年6月12日

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ICU 日本集中治療医学会機能評価委員会

JIPAD ワーキンググループ











Japanese Intensive care PAtient Database

改版履歴

日付 Ver. 更新者 変更内容
2016/6/28 1.0.0 新規作成
2023/6/12 2.0 ICON 文章更新等
部⾨システムからのデータの⾃動取り込みにおける注意点

〜JIPAD への参加を検討されている皆様へ〜

 現在市販されている ICUJIPAD 部⾨システムのほとんどに のためのデータ出⼒を⾏う仕組みがオプションとして⽤意されています。しかし実際に使ってみると思いのほか多くのトラブルが発⽣して上⼿くいかないことがあるようです。また導⼊前の仕様書に盛り込まず、導⼊後にこのようなシステムがあることに気がつかれる施設もあるようです。

 以下をお読みいただいた上で導⼊前に準備を⾏っていただければ、そのようなトラブルに悩むことなく、スムーズにデータ収集が可能となると思われます。やや⻑⽂となりますが、ご⼀読いただければ幸いです。

・⼊院⽇

 部⾨システムの患者情報欄に⼊院⽇の項⽬を必ず作成してください。電⼦カルテからの情報を受信する必要があるため、両⽅のシステムへの介⼊が必要です。契約によっては費⽤が発⽣する可能性があるので、電⼦カルテと部⾨システムの導⼊時もしくは更新時に⼊院⽇を取り込む機能を追加することをお勧めします。

・退院⽇

 APACHE などの重症度スコアで予測されるのは退院時転帰であり、ICU データベースには退院⽇ および退院時転帰は必須です。にもかかわらず ICU では収集するのが困難な項⽬となります。これは通常の 部⾨システムでは 退室までの記録しか⾏わないためです。そのため退室後の患者の電⼦カルテをこまめに開き、退院したかどうかを⽬で確認するという⾯倒な作業をしておられる施設も多く⾒られます。しかし、JIPAD Local には退院時データを⾃動で取り込む機能があります。院内の診療情報部やシステム課といった部署に退院⽇と退院時転帰の出⼒を依頼してください(これまで断られた施設はありません)。

 具体的なデータ取り込み⽅法は、
https://www.jipad.org/images/data/JIPADmanual_7_20190911.pdf
をご参照ください。

・⼊退室⽇時

  ICU に何時に来たのか、何時に出て⾏ったのか、ごく基本的な情報のように思われますが、この情報を⾃動取り込みできない施設は驚くほど多くあります。理由は、部⾨システムで新規患者を作るには⼊室⽇時の⼊⼒が要求されるため、例えば予定⼿術の患者が⼊室する前に事務作業をしたいなど、まだ患者さんが来ていないのに現在時刻を⼊⼒し、そのままになっているケースが多いためです。退室⽇時も同様で、患者をベッドマップから動かすために、退室から何時間も経ってから⼊⼒されることが珍しくありません。これを回避するには、⼊退室⽇時は物理的に患者が移動した時間を⼊⼒することを習慣化する必要があります。

・⾝⻑、体重

 電⼦カルテはほとんどの場合で⾝⻑体重の情報を持っています。これを部⾨システムに取り込むことが可能です。ただし、データベースに(診療においても)必要なのは ICU ⼊室時の情報のため、電⼦カルテの情報は不正確な可能性があります(特に体重)。⼊室時に現状を測定(もしくは本⼈家族から聴取)して、それを⼊⼒する習慣を作りましょう。

・病名、術式

 部⾨システムの患者情報欄には病名欄がありますが、空欄のまま、DPC病名を取り込む、⼿術室からの情報を使⽤する、のどれかのことがほとんどではないかと思います。しかし、ICU的視点での病名はそのどれでもないことが少なくないため、順調だった予定⼿術を除いてほぼ必ず修正する必要があります。部⾨システムではどのページを開いてもこの病名欄が表⽰されることが多いため、正確に記載することにより全スタッフが共通の病名を認識することができるので、データベースのためだけではなく臨床的に意義があると思われます。

・バイタルサイン

 部⾨システムにおけるバイタルサインの記載⽅法は主に以下の三種類です。
1:⽣のデータをそのまま表⽰する。多くは 1 分毎。
2:10-15 分毎にデータを⾃動プロットし、異常値は看護師が適宜修正。
3:1-2 時間毎に看護師が⼿⼊⼒する、もしくはモニタから取得した数値を確認しないと表⽰されないように設定する。
 このうち、3 は正確性は⾼いですが、頻度が少なすぎて経過が分かりにくく、著明なバイタル異常(徐脈、頻脈、ショック、⾼⾎圧)があっても追記されなかったりするので、現代のICU のバイタル情報としては不⼗分ではないかと思われます。また、異常値が記載されにくい=重症度スコアが低めに算出される=施設の予測死亡率が低くなる=standard mortality ratio が⾼くなる=施設の評価が低くなる、という問題もあります。(徐脈、頻脈、ショック、⾼⾎圧)があっても追記されなかったりするので
 1 は患者さんの状況がもれなく表⽰されますが、線が太くなって⾒にくく、A-line の採⾎時、⼼電図電極がはずれた時、呼吸のインピーダンスがとれずゼロになった時なども表⽰されてしまうため、⼊室 24 時間以内の最⾼最低の⾃動取り込みはできません。上下の域値を設けて範囲外のデータを利⽤しないというルールを作って⾃動取り込みする⽅法はありますが、⼼停⽌など実際にその異常値が発⽣しても無視されてしまいます。
 2は 1 と 3 との中間で、両⽅の良いところと悪いところを併せ持ちます。データベースの⾃動取り込みにはこれがちょうど良いように思われます。ただしナースにより異常値の適宜の修正は必須で、それを⾃動取り込みすると不正確な情報になってしまいます(典型例:突然の頻呼吸や徐呼吸、⾎圧の脈圧がすごく⼩さい、など)。
 正しく⾃動取込みができて施設の評価が正しく⾏われるためには、2 を選択し、かつ異常値をちゃんと修正する習慣を作る必要があります。

・GCS

 率直に⾔って、GCS の⾃動取り込みは不可能です。その理由は臨床的な推測が必要だからです。下記は JIPAD の辞書からの引⽤です。

――――――――――
GCS 評価時の注意事項
・ICU ⼊室後 24 時間で合計がもっとも低いときの値を記載。
・⿇酔や鎮静剤が投与された場合は薬剤がなかったとして推測。その場合、鎮静前の状態が参考になる。たとえば定期⼿術後の⼊室なら、⿇酔導⼊前の値を記⼊する。
・ただし、薬物中毒の場合は例外で、そのままの GCS を記載する。
・また、浮腫により開眼できない場合も同様に推測する。
・多くの症例では E4V5M6 となるはずである。
――――――――――
 実際に⾃動取り込みをすると、GCS の欄は上記の理由から 80%くらい修正の必要があります。
典型例は、⿇酔のせいで 111 と記載、夜寝ているので 356 と記載、などです。これらは 456 に直す必要があります。

・⼈⼯呼吸の開始終了

 部⾨システムの経過表には、医者が出した「指⽰」と、実際に患者さんに⾏われた「実施」が表⽰されているのが⼀般的です。薬剤欄は、多くは実施が記載されています(どんな持続点滴がどれくらいの流速で投与されているとか、どの抗菌薬が何時に投与されたとか)。⼈⼯呼吸の欄には、指⽰の⽇時が記載されている場合、実施の⽇時が記載されている場合、両⽅とも記載されている場合の 通りあり、メーカーや施設によって異なります。⼈⼯呼吸の開始終了の情報を⾃動取り込みするには、指⽰・実施のどちらから取ってきても構いませんが、思ったほど簡単ではありません。なぜなら、指⽰にしても実施にしても、実際に⾏われた時間が記載されているとは限らないからです。例えば患者さんを抜管したら⼈⼯呼吸の終了と酸素マスクの開始のオーダーがされて、その実施が⾏われますが、抜管直後にはコンピューターに⼊⼒できないので、しばらくしてから抜管の時間を⼊⼒します。その時に、現在時刻を抜管時刻に修正する必要がありますが、それが必ず⾏われているとは限りません。また、⼿術室もしくは救急外来から挿管された状態で ICU ⼊室する場合、JIPAD では⼈⼯呼吸の開始⽇時は ICU ⼊室⽇時と同じにすることになっています。これによって ICU で挿管されたのかどうかが分かります(ANZICS の⽅法を採⽤)。⼊室した瞬間にコンピューターに⼊⼒する⼈はいないので、後で⼊⼒することになりますが、現在時刻を⼊室時刻に変更する意思を持たない限り、⾃動取り込みされる⽇時はほぼ必ず正しくないデータになってしまいます。
 指⽰も実施も当てにならないから、⼈⼯呼吸器からの取り込みデータを使おうというアイデアを出す⼈もいます。部⾨システムは⼀回換気量や気道内圧のデータを取り込んでいることが多いので良いアイデアと思うかもしれませんが、これもうまく⾏きません。
例えば CT に⾏っている間は呼吸器の電源を落としたりしますし(⼈⼯呼吸の終了として取り込まれてしまう)、⼊室前にテストラングに繋いているかもしれません(⼊室前から⼈⼯呼吸が⾏われたことになる)。
 以上より、⼈⼯呼吸の開始終了は指⽰・実施のどちらから取り込んでも構いませんが、実際に開始終了が⾏われた時間を⼊⼒することを習慣化する必要があります。また、⼊室時に⼈⼯呼吸が⾏われていた場合は、⼊室⽇時を⼊⼒することを習慣化するか、取り込み後に修正する必要があります
(JIPAD Local / Internal には⼊室⽇時をそのまま⼈⼯呼吸開始時間として⾃動⼊⼒できるボタンがありますのでこの機能を使えば簡単に修正はできます)。

・⾎液ガス

簡単に⾃動取り込みできそうな項⽬ですが、実際は複数の問題があります。まず、FiO2 が⼊⼒されていない(0.21 のまま)ことが多いのです。APACHE では A-aDO2、SAPS や SOFA では P/F ⽐を使⽤するため FiO2 が必要です。臨床的にも、これらの数字が計算されて画⾯に表⽰されていた⽅が便利ですが、多くの施設で⼊⼒が⾏われていません。⾎液ガスを機械に⼊れるときに、バーコード認証やベッド番号⼊⼒などをする機会がありますが、その時に FiO2 も⼊⼒するようにしましょう。ただし、⾎液ガス測定器が情報を部⾨システムに送信し、部⾨システム側はそれを受信して表⽰する機能が必要です。

 次に検体の種類です。データベースへの取り込みに必要なのは動脈⾎の情報のみですが、静脈⾎や胸⽔など、動脈⾎以外の検体も⾎液ガスで測定されることがあります。⾎液ガス測定時には FiO2 に追加して検体情報も⼊⼒するようにしましょう。

以上です。全てに共通することは、

・システムの変更にはお⾦も時間もかかるので、導⼊時や改訂時に⾏うべき。
・機械の問題だけでなく、医療者の習慣の変化も必要。ただし、バイタルサインをちゃんと記録する、正しい⽇時を⼊⼒する、PF ⽐を表⽰するため FiO2 を⼊⼒するなど、データベース以前に臨床のためにするべきことをちゃんとやる。
の⼆点です。
最初は⼤変ですが、システムができてしまえば⾃動取り込みを⽤いたデータ収集は⾮常に容易になります。是⾮、ご検討いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

2020年12 ⽉20⽇
⽂責:内野滋彦、橋本悟





























Japanese Intensive care PAtient Database