E02-1-データ収集のピットフォール
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JIPAD
JIPAD
Japanese Intensive care PAtient Database
日本ICU患者データベース
E02-1.データ収集のピットフォール
Version 2.0
変更日:2023年6月12日
ICU 日本集中治療医学会機能評価委員会
JIPAD ワーキンググループ
Japanese Intensive care PAtient Database
改版履歴
日付 | Ver. | 更新者 | 変更内容 |
---|---|---|---|
2016/6/28 | 1.0.0 | 新規作成 | |
2023/612 | 2.0 | ICON | 画像更新等 |
・今後のデータ収集の参考として、クエリ制度や不定期チェックにおいて多く見られた入力間違いをまとめておく。より詳細なルールについてはデータ辞書を参照のこと。
・どの主病名コードを選択すれば良いかわかりにくいものや問い合わせが多くあったものを、この章の最後に表に記した。
入室形式
・予定手術のためにICU 入室がもともと計画されていた場合は“予定” を選択。CV 挿入やカルディオバージョンなどの手技およびその後の経過観察のための予定された入室で、24 時間以内に退室した場合は“ICU での手技” を選択。その他の場合は“緊急” を選択する。
入室経路
・透視室/心カテ室/CT・MRI/内視鏡室などから ICU に入室した場合は、それ以前にいた場所(“病棟”や“救急外来”など)を選択する。これらの場所で全身麻酔下に行われた手術が行われた場合には“手術室”を選択する。
・ここでいう全身麻酔とは「該当手技のために人工呼吸器を使用した」とする。麻酔器を使用したかどうかは問わない。
・脳血管や動脈瘤の血管内治療は同様の手技が血管撮影室で行われることがあるため、原則的に手術として扱う。心カテ室における経皮的冠動脈形成術などについては非手術として扱う。
・入室区分が予定手術の場合、入室経路はほとんどの症例で手術室になる。
緊急コール
・コードブルーおよび RRT/MET は、各施設での定義に従う形で区別する。
心停止蘇生後
・心停止に対し蘇生処置を行った場合に選択する。
病名テキスト
・端的に、かつ何故 ICU 入室となったかがわかるように心がける。できる限り、呼吸不全などのような症候名のみではなく原因疾患を記載する。
・非手術例では主病名コードの“心停止”は最優先されるため、例えば病棟で肺塞栓により心停止した場合、主病名欄に“心停止蘇生後、肺塞栓”などと記載すると分かりやすい。
・慢性疾患や、データ収集項目にはない特殊なデバイスや治療など(例:IMPELLA、TTM、NO、etc.)がある場合には、そのことを病名テキストに記しておくと、あとで見たときに分かりやすく、各施設のデータベースとして有用である。
ICU 在室中の治療
・気管切開は、手技が今回の ICU 在室中に行われた場合のみ“Yes”を選択し、単に気管切開チューブが留置されている状態で入室した場合(例:喉頭癌に対する手術中に気管切開された後に ICU 入室)は“No”を選択する。
・ICU 入室前に人工呼吸が行われていた場合(術後など)は、開始時間は ICU 入室時になる。同様に、人工呼吸のまま ICU 退室した場合は、終了時間は ICU 退室時になる。特に患者情報システムからの自動取り込みを行うと、時間が不正確になることが少なくないので注意が必要である。
ICU 退室日時
・ICU から死亡退室した場合退室時間は死亡時間でありご遺体が ICU から出た時間ではない。
その他
・まれなケースとして、脳死と宣告された後にドナー管理目的で入室した症例は、データ登録の対象外とする。
・収縮期血圧・拡張期血圧・平均血圧の最高・最低値が逆転することがあるが、警告を無視して採用する。
主病名コード
・前述のように主病名コードの“心停止”は非手術例では最優先されるため、その場合には主病名コードは“心停止”を選択し、心停止した原疾患は副病名コードで選択する。
・“心停止”を選択すべきものとしては、ICU 入室理由が心停止であることが明らかな場合、ICU 入室時には安定しているが入室前に致死的不整脈が原因で一旦は CPRを要した場合、院外心停止で CPR を要した場合などが挙げられる。
・処置中のごく軽微な心停止(1 サイクル以内程度の CPR)に関しては、主病名コードは原疾患を記載する。例えば急性心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術中や誤嚥性肺炎に対する処置中に心停止して数秒間 CPR を行ったあるいは自然復帰したような場合は、主病名コードは“急性心筋梗塞”“誤嚥性肺炎”などとする。
・入室するきっかけとなった主病態が敗血症もしくは敗血症性ショックの場合、主病名コードは敗血症や敗血症性ショックに至った原疾患を選択する。たとえば呼吸器感染や消化管穿孔などが主病態である場合、主病名コードはそれぞれの疾患を選択し、副病名に“敗血症”(もしくは“敗血症性ショック”)を選択する。
・主病名として“敗血症”もしくは“敗血症性ショック“が選択されるのは、主病名に記載されていない感染性疾患(カテーテル感染など)もしくは原因不明の場合のみである。また、尿路感染による敗血症および敗血症性ショックの場合の主病名コードも、それぞれ”尿路感染による敗血症“、”尿路感染による敗血症性ショック“を選択する。
・JIPAD 辞書に ANZICS-APD で使用されている病名サブコード表が添付されており、それぞれの主病名コードが具体的にどんな疾患を含むかが不明確な場合には参考になる。ただしサブコードの入力は不要である。
問い合わせの多いコード
病名 | 非手術or手術後 | 疾患群 | コード:主病名 |
---|---|---|---|
ア行 | |||
悪性高熱症 | 非手術 | 代謝性 | 704:その他の代謝性疾患 |
悪性症候群 | 非手術 | 代謝性 | 704:その他の代謝性疾患 |
アナフィラキシー ショック |
非手術 | 心血管 | 109:その他の心疾患 |
一酸化炭素(CO)中毒 | 非手術 | 代謝性 | 703:薬物中毒 |
胃瘻造設術 | 手術後 | 消化器 | 1408:その他の消化器疾患 |
壊死性筋膜炎 (手術あり) |
手術後 | 筋骨皮膚 | 1904:軟部組織感染 |
カ行 | |||
川崎病 | 非手術 | 筋骨皮膚 | 1101:筋骨皮膚疾患(膠原病含む) |
気道狭窄 (急性喉頭蓋炎、抜管後浮腫、異物など) |
非手術 |
呼吸器 |
208:気道閉塞 |
急性腎障害による異常 が主な入室理由の場合 |
非手術 |
代謝性など |
704:その他の代謝性疾患など |
急性腎障害が主な 入室理由の場合 |
非手術 |
泌尿生殖器 |
901:泌尿器疾患 |
急性大動脈解離に 対する緊急手術 |
手術後 |
心血管 |
1209:急性大動脈解離 |
眼科手術 | 手術後 | 神経系 | 1506:その他の神経系疾患 |
経カテーテル大動脈弁 留置術(TAVI、TAVR) |
手術後 |
心血管 |
1208:その他の心血管疾患 |
経カテーテル僧帽弁 形成術(MitraClip) |
手術後 |
心血管 |
1208:その他の心血管疾患 |
経カテーテル左心耳閉鎖術(WATCHMAN) | 手術後 |
心血管 |
1208:その他の心血管疾患 |
頸動脈ステント留置 | 手術後 | 心血管 | 1214:内頚動脈ステント |
後腹膜腫瘍に対する手術 |
手術後 |
消化器 泌尿生殖器など |
1405:消化器腫瘍 1701:泌尿器腫瘍 |
サ行 | |||
三半規管に関する手術 | 手術後 | 神経系 | 1506:その他の神経系疾患 |
耳下腺腫瘍術後 | 手術後 | 呼吸器 | 1303:口腔/咽喉頭/鼻腔/気管の腫瘍 |
試験開腹術 |
手術後 |
消化器 泌尿生殖器 産婦人科など |
1405:消化器腫瘍 1408:その他の消化器疾患 1701:泌尿器腫瘍 1803:その他の婦人科疾患など |
シャント手術 (血液透析用) |
手術後 | 心血管 | 1202:末梢血管疾患 |
食道静脈瘤破裂 | 非手術 | 消化器 | 303:消化管−門脈圧亢進 |
生体移植ドナー |
手術後 |
消化器 泌尿生殖器など |
1408:その他の消化器疾患 1703:その他の泌尿器疾患など |
脊椎・脊髄手術 | 手術後 | 神経系 | 1504:椎弓/脊髄手術 |
タ行 | |||
大動脈破裂に対する 緊急手術 |
手術後 |
心血管 |
1210:大動脈破裂 |
体温異常 | 非手術 | 代謝性 | 704:その他の代謝性疾患 |
電解質異常 | 非手術 | 代謝性 | 704:その他の代謝性疾患 |
ナ行 | |||
乳腺に関する手術 | 手術後 | 筋骨皮膚 | 1903:形成/皮膚手術 |
熱中症 | 非手術 | 代謝性 | 704:その他の代謝性疾患 |
ハ行 | |||
鼻出血 |
非手術 手術後 |
呼吸器 呼吸器 |
211:その他の呼吸器疾患 1304:その他の呼吸器疾患 |
腹部刺創 |
非手術 手術後 |
外傷 外傷 |
602:頭部を含まない多発外傷 1602:頭部を含まない多発外傷 |
蛇咬傷 (マムシ、ハブなど) |
非手術 | 代謝性 | 703:薬物中毒 |
その他 | |||
外傷か整形外科疾患か 迷う症例(大腿骨頚部骨折などの手術後) |
手術後 |
緊急手術は外傷 予定手術は筋骨皮膚 |
1602:頭部を含まない外傷 1902:整形外科手術 |
肝硬変を伴わない 胃潰瘍などによる上部消化管出血 |
非手術 | 消化器 | 305:消化管出血−上部/部位不明 |
消化管腫瘍による イレウスに対する手術 |
手術後 |
消化管 |
どちらの病態がメインであるかで選択する。イレウスに対する手術であれば、1404:消化管閉塞。イレウス症状を伴った腫瘍に対する手術であれば 1405:消化管腫瘍。 |
消化管手術後の 縫合不全に対する手術 |
手術後 | 消化管 | 1408:その他の消化管疾患 |
STA-MCAバイパス術などの頭蓋内血管吻合術 | 手術後 | 神経系 | 1506:その他の神経系疾患 |
成人・小児の手術後・非手術に関する疾病群・病名・コードはデータ辞書を参照してください。
慢性疾患
・慢性疾患は入院時点以前の状態であり、例えば心不全で ICU に入室したとしても、今回の入院以前の状態が NYHA IV 度でなければ心不全は選択されない。
・また、もともと呼吸不全はないが、前医で肺炎に対して気管挿管され、転院直入でICU に入室した場合は、ICU 入室時点では人工呼吸器を使用しているが、今回の肺炎発症以前には呼吸不全ではないため、呼吸不全は選択されない。心不全や免疫抑制についても同様である。
・ステロイド内服中の患者すべてで免疫抑制が“Yes”になるわけではなく、プレドニゾロン換算で 0.375mg/kg/日以上の場合に“Yes”となる。
・転移性肺腫瘍や転移性肝腫瘍などの術後で、ICU 入室時には転移巣や原発巣が除去されていても、これらの場合には癌転移は“Yes”を選択する。
・癌の腹膜播種や胸膜播種は、癌転移は“Yes” を選択する。
疾患名 | スコア | 定義 |
---|---|---|
AIDS | II, III, S | HIV 陽性で、AIDS の定義を満たす合併症がある。 |
心不全 | II | NYHA IV:安静時もしくは非常に軽度の労作で症状が出現。 |
呼吸不全 | II | 証明された慢性の低酸素、高二酸化炭素、二次性多血症、重度の 肺高血圧、人工呼吸器依存。 |
肝不全 | II, III | 下記の肝硬変があり、かつ黄疸/腹水/上部消化管出血/肝性脳 症の既往がある。 |
肝硬変 | II, III | 肝硬変になる原因があって門脈圧亢進症状(食道静脈瘤など)が あるか、生検にて証明されている。 機能している移植肝を持っている場合は含まない。 |
白血病/ 多発性骨髄腫 | II, III, S | 過去5年以内の既往。 白血病は急性/慢性、骨髄性/リンパ性を問わない。 |
リンパ腫 | II, III, S | 過去5年以内の既往。 |
癌転移 | II, III, S | 固形癌の遠隔転移。所属リンパ節や浸潤は含まれない。 |
免疫抑制 | II, III | 6ヶ月以内に以下の治療を受けている:免疫抑制剤/化学療法/ 放射線療法/ステロイド(プレドニゾロン換算で 0.375mg/kg/日 以上)。 |
維持透析 | II | 血液透析もしくは腹膜透析が3ヶ月以上前から導入。 |
成人重症度スコア
・急性腎障害は APACHE スコアで使われている定義(Cr≥1.5mg/dl かつ尿量>410ml/24h)を満たしたときのみ“Yes”となる。
・患者情報システムで不正確に記録された動脈圧や呼吸数は、自動取り込みでは間違ったままになるため手入力による修正が必要になる。まず記録を正確に行うことが重要である。
・血液ガスと生化学検査の両方で測定される Na、K、Glu はどちらも使用し、最悪値を入力する。ヘマトクリットは多くの血液ガス分析装置では測定されず計算されており、使用しない。
・低体温療法など、機器により 36℃を下回るように体温コントロールが行われた場合は、その体温は使用しない。
・GCS は麻酔や鎮静剤が投与された場合は薬剤がなかったとして推測する。その場合、鎮静前の状態が参考になる。ただし薬物中毒の場合は例外で、観察された GCSをそのまま記載する。また浮腫により開眼できない場合も同様に推測する。予定手術の術後などでは多くの症例では E4V5M6 となるはずである。また、APACHE IIIで評価不能となる GCS の組み合わせがあるので、データ辞書を参考にすること。
・ECMO/PCPS を施行中の FiO2は、各施設・各症例によって判断してよい(人工呼吸器の FiO2 を選択する、ECMO/PCPS と人工呼吸器のどちらか高い方を選択する、患者の状態や採血部位によって臨床的に判断する、など)。
・ICU入室後24時間以内に心停止もしくは死亡した場合は、脈拍・収縮期血圧・平均血圧・拡張期血圧・呼吸数の最低値は、すべて“0”を記載する。またこの場合、GCSはE1V1M1とする。
小児用重症度スコア
・24 時間の最悪値を使用する成人重症度スコアと異なり、入室 1 時間以内の最初の測定値を使用する。
・「術後の回復目的」には、放射線科的手技や心臓カテーテル検査を含む。「人工心肺使用後」で“Yes”を選択した患者では、「術後の回復目的」も必ず“Yes”を選択する。
・高リスク診断名の「7:左心低形成症候群」については、新生児期あるいはそれ以降でもNorwood 手術あるいはそれと同等の手術を必要とする場合には選択する。また、過去に診断あるいは治療されていれば、ICU 入室時点で根治されていても選択する。
感染症解析時の定義
感染症コード表に含まれるコードが主病名コードとして登録されている
副病名に敗血症(501)もしくは敗血症性ショック(503)が登録されている。
※感染症を含む主病名コードのうち、感染症としての登録頻度が低い主病名コードは上記、 感染症コード表に含めない。
例えば、その他の心疾患(109)に感染性心内膜炎が含まれるが、感染症以外の疾患の方が多く含まれるため感染症コードとして含めない。
※副病名に感染症コードが登録されている場合、主たる入室理由が感染症でない場合が多いため、感染症として含めない。
コード | 疾患群 | 疾患名 |
---|---|---|
非手術 | ||
201 | 呼吸器 | 誤嚥性肺炎 |
210 | 呼吸器 | 真菌性/原虫性肺炎 |
212 | 呼吸器 | 細菌性肺炎 |
213 | 呼吸器 | ウイルス性肺炎 |
308 | 消化器 | 消化管穿孔/破裂 |
313 | 消化器 | その他の消化器の炎症/感染 |
404 | 神経系 | 神経系感染 |
501 | 敗血症 | 敗血症 |
502 | 敗血症 | 尿路感染症による敗血症 |
503 | 敗血症 | 敗血症ショック |
504 | 敗血症 | 尿路感染症による敗血症ショック |
1102 | 筋骨皮膚 | 蜂窩織炎/軟部組織感染 |
手術 | ||
1301 | 呼吸器 | 呼吸器感染 |
1401 | 消化器 | 消化管穿孔/破裂 |
1406 | 消化器 | 胆嚢炎/胆管炎 |
1409 | 消化器 | 痩/膿瘍手術 |
1412 | 消化器 | 腹膜炎 |
1904 | 筋骨皮膚 | 軟部組織感染 |
Japanese Intensive care PAtient Database